2016年11月15日火曜日

標本の作り方 自然を記録に残そう

植物図鑑を開けば腊葉標本の作り方、
昆虫図鑑を開けば展翅の仕方。
自然科学、就中、分類学等古典的な分野の本を開けば
その分野の標本の作り方は必ず書いてあるが
この本は分野を問わないあらゆる標本の作り方を説いている。
むしろ、
展翅だの三角紙の扱いだの、
マニアな詳細情報が比較的容易に手に入る類の記述は大幅に省略されてしまっている。
なんだかそこにものすごい「本気さ」を感じてしまう。
岩石、化石、高等植物、海藻、菌類、苔、地衣類、
昆虫、甲殻類、貝、魚、鳥類、哺乳類、卵、糞便…
思いつく限りの相当が含まれている。

そして一つ気づいたのは
学生実験とか、
触ったことがある程度、ではあるにせよ
自分自身これまで
結構いろんな標本づくりをしたなぁ、
ということ。
ちょっとびっくりした。
古典的な生物系の講義を好んで履修していたから
当たり前なのかもしれないけど。
(就職後間もないころ上司に「君の学問は(実学でなく)虚学だ!」と
 難じられた。お互い最初から分かっていたと思うのだけれど)

「哺乳類の皮むきなんていったいどんな機会に…」
と思ったがこの作業にも覚えがある。
マウスの筋肉を観察するときたしかにこの手順で「皮むき」した。
バッタの精巣のパラフィン包埋とかもやった。
腊葉標本はひと夏つぶすくらい大量に製造したし
海藻標本もだいぶ作った。
液浸、骨格、切片、岩石…

物珍しくてこの本を買ったつもりでいたが
実は
何か懐かしくて手に取ったのではないか、
と読み終わってから気づいた。

そんな盛りだくさんな記述の中で
いちばん心に残ったのは
「最小限の情報を残すための方法」
という半ページ足らずのコラムの中の一文。
著者はキノコの研究者。

採集に使う新聞紙はかならず当日の新聞を使う、
それも
一面から順に使う。
日付と場所を書き損ねても最小限の情報を残せる。
天魚注:当日の新聞なら少なくとも日付は確実である。
さらに、
たとえば5面で包んだキノコの記録を残せなかったとしても
4面と6面で包んだキノコに記録があれば、
当日ルートのどのあたりで採集したのかが特定できる。
私はこのために
ページ数の多い日経を読みます。

なんたることか!
日経読者の少なくとも1人は
記事でも論調でも惰性でもなく
そのページ数を愛して購読しているのである。



大阪市立自然史博物館叢書②
標本の作り方 自然を記録に残そう
大阪市立自然史博物館編著
東海大学出版会2007年


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